2025/6/29
債務超過とは?原因・リスク・解消法をわかりやすく解説
「最近、資金繰りが厳しいな…」「銀行の反応が以前より渋い気がする…」といった漠然とした不安を感じている経営者様がいらっしゃれば、もしかするとそれは「債務超過」のサインかもしれません。そこで今回は、この「債務超過」とは一体どのような状態なのか、そしてなぜ起こるのか、もし陥ってしまった場合にどのような対策が考えられるのかを解説していきます。

目次
債務超過とは?わかりやすく解説
「債務超過」は単に「今月は赤字だ」という話とは次元が違い、会社の財務的な体力が根本から問われている深刻なサインです。
具体的に言うと、会社の全財産(現金、預金、不動産など、すべて)をかき集めても、抱えている借金や未払金といった負債の総額を返しきれない状態を指します。「もし会社を今すぐ精算して全財産を現金化しても、まだ借金が残ってしまう…」というようなイメージです。
この状態が続くと、事業拡大のために融資を申し込んでも、銀行から「今の財務状況では難しい」と断られてしまう。あるいは、長年良好な関係だったはずの取引先から、突然「申し訳ないが、今後の取引は前金でお願いしたい」と告げられる可能性が高まります。このように、会社の信用そのものが揺らぎ、事業運営に直接的な影響が出始めるのです。
債務超過は次のような悪循環を引き起こします。
- 成長への投資が滞り、競争力が低下する:設備投資や新商品開発が遅れ、市場の変化についていけなくなる。
- 利益が出にくい体質に陥り、資金繰りがさらに悪化する:売上があっても、支払いに追われ、手元にお金が残らない。
もちろん、債務超過になったからといって、明日すぐに会社が倒産するわけではありません。しかし、この状態を放置すれば、じわじわと会社の体力を奪い続け、最終的に資金繰りが行き詰まれば、「倒産」という最悪の事態に至る可能性が現実味を帯びてきます。「支払いができない」「従業員の給料が払えない」…そんな状況に陥る前に手を打つ必要があるのです。
(もし上場企業であれば、債務超過が1年以上続くと「上場廃止」になることもあります。)
さらに厄介なのが、決算書上の数値では純資産がプラスであっても、資産の実態価値を厳密に評価し直すと、実は債務超過に陥っている「実質債務超過」という状態です。これは、いわば帳簿には現れない隠れた債務超過であり、経営者が気づきにくい深刻なリスクと言えます。
例えば、御社の資産の中に、こんな項目は眠っていませんか?
- 回収の見込みが立たないまま、長期間放置されている売掛金(いわゆる不良債権)。
- 実質的には返済が期待できない、関連会社などへの貸付金。
- 購入時よりも市場価値が大幅に目減りしてしまった土地や、もはや価値がない稼働していない古い機械設備。
これらの資産を「今の本当の価値(時価)」で見直した結果、「帳簿上はプラスだったはずの純資産が、実はマイナスになっている…。」これが「実質債務超過」の正体です。まずは、この表面的な数字の裏に潜むリスクを正確に把握することが、現状を打開するための第一歩となるでしょう。
債務超過の主な原因3選
ここでは、債務超過を招きやすい3つの代表的なケースを、直面しがちな状況を交えながら解説します。
赤字の常態化
支出が収入を上回り続ける「赤字」。これが常態化すると、会社の体力である純資産は少しずつ、しかし確実に目減りしていきます。
もちろん、創業期や大きな先行投資の後など、一時的な赤字は避けられないこともあります。「今は種まきの時期だ」と明確な黒字化プランがあるなら、心配しすぎる必要はないかもしれません。しかし、「いつかは好転するはず」と問題を先送りにしている場合、ターゲット設定のズレ、販売戦略の不備、過剰在庫など、ビジネスモデル自体に課題がある可能性が高いです。
投資による負債の増加
「事業を成長させたい」「新しい機械で生産性を上げたい」
そのために融資を受けて投資に踏み切る。これは経営者として当然の決断です。
借入が悪いわけではありません。重要なのは、投資のリターンだけでなく、「もし計画通りにいかなかったら?」というリスクを冷静に見極め、無理のない返済計画を立てることです。
資産の評価損や特別損失
予期せぬ事態が債務超過の引き金になることも…。これには主に2つのパターンがあります。
一つは、会社が持つ資産の市場価値が購入時や帳簿価額から大幅に下落し、その結果として「評価損」を計上せざるを得なくなるケースです。これは、決算時に資産の時価評価や減損会計の適用により表面化し、純資産を直接的に大きく減少させます。例えば、「将来有望」と購入した有価証券が市場の変動で暴落したり、大量の在庫が陳腐化し売れ残り、その経済的価値が著しく失われたりする場合など、「いざとなれば売れるはず」と思っていた資産が、実はあてにならないこともあります。
もう一つは、通常の事業とは関係ない突発的な「特別損失」です。例えば、自然災害で工場が被災したり、予期せぬ訴訟で多額の支払いが発生したりなどこうした大きな損失が一時的に会社の純資産を吹き飛ばし、債務超過に陥らせるのです。

債務超過になってしまった場合の解消法
ここでは、経営者様が実際に取り組める5つの一般的な解消策をご紹介します。
利益を出す
事業でしっかりと利益を生み出し、会社の純資産を増やしていくことです。言うのは簡単ですが、これが最も健全で確実な道と言えるでしょう。
下記の中で今すぐできることはありませんか?
- 固定費の見直し:事務所の家賃やリース料、通信費など、毎月必ず出ていくお金に無駄はないか、徹底的に洗い出してみましょう。
- 仕入れコストの削減:長年の付き合いだからといって惰性で取引していませんか? 相見積もりを取る、交渉するなど、少しでも安く仕入れる努力が必要です。
- 不採算部門の整理:赤字を垂れ流している事業や店舗があれば、勇気ある撤退も視野に入れ、利益の出る部門に経営資源を集中させましょう。
地道な努力ですが、こうした「会社の贅肉をそぎ落とす」作業が、利益体質への転換、そして債務超過解消の第一歩となります。
増資する
「とにかく早く会計上の債務超過だけでも解消したい!」そんな時に考えられるのが、増資によって自己資本(純資産)を増やすという方法です。
具体的には、
- 経営者自身が追加出資する:社長個人の資金を会社に投入する。
- 役員からの借入金を資本金に振り替える:これは比較的実行しやすい方法です。
- 新たな出資者を募る:新株を発行し、外部から資金を調達します。
これらの方法は、短期間でバランスシート上の純資産を増やせる即効性があります。しかし、注意したいのは、増資はあくまで「帳尻を合わせる」一時的な対策であり、赤字を出し続ける根本的な事業構造が変わらなければ、いずれまた同じ問題に直面するということです。また、外部から出資を受け入れる場合は、経営の自由度が下がる可能性も考慮しなければなりません。
DES(デット・エクイティ・スワップ)を行う
これは「債務の株式化」とも呼ばれ、会社が抱えている借金(Debt)を、新たに発行する自社の株式(Equity)と交換(Swap)するものです。
金融機関などの債権者(お金を貸している側)に、借金の返済の代わりに自社の株主になってもらう、というイメージです。会社にとっては、現金の持ち出しなしに負債を減らし、自己資本を厚くできる大きなメリットがあります。
しかし、債権者側から見れば、確実に回収できるはずだった貸付金が、価値の変動する株式に変わるわけですから、簡単には応じるというものでもありません。「この会社の株に、それだけの価値があるのか?」と厳しい目で判断されます。DESを成功させるには、将来性のある事業再生計画を提示し、債権者を納得させることが不可欠です。
債務免除をお願いする
債権者(お金を貸してくれている金融機関や取引先など)に、借金の返済を一部または全部免除してもらう(借金をチャラにしてもらう)という直接的な方法です。現実になる可能性が高いのは、例えば、債権者との間に非常に強い信頼関係があり、会社を潰すよりも多少の債務を免除してでも事業を継続させた方が、将来的には債権者にとってもメリットが大きいと判断されるような、かなり限定的なケースでしょう。
また、忘れてはならないのが、債務免除益には税金がかかるということです。一時的に利益が出ても、その分の納税資金が必要になる点を頭に入れておく必要があります。
会社再生法を適用する
最後の手段として検討するのが、民事再生法や会社更生法といった法的な整理手続きです。
これらの法律は、裁判所の関与のもとで、会社の借金を整理・減額したり、支払いを猶予してもらったりしながら、事業の再生を目指すための制度です。
- 民事再生法
原則として今の経営者様がそのまま残り、自ら再生計画を立てて実行していく手続きで、比較的多くの中小企業で利用されています。
- 会社更生法
原則として経営陣は退任し、裁判所が選んだ管財人が中心となって再建を進める、より大規模な会社向けの制度です。
これらの法的整理は、確かに事業を継続できる可能性を残すものですが、取引先や金融機関からの信用は大きく傷つき、その後の事業運営には困難が伴うことを覚悟しなければなりません。「それでも、この事業を守り抜きたい」という強い思いがある場合に、専門家と十分に相談した上で検討すべき選択肢と言えるでしょう。

まとめ
今回は、「債務超過」という経営状況について、その意味、主な原因、そして具体的な解消法に至るまで見てきました。日々の経営の中で、気づかぬうちにその淵に立っている可能性も否定できません。大切なのは、まず自社の財務状況を正確に把握し、「もしかしたら…」と感じる小さなサインを見逃さないことです。ALBA税理士法人は静岡市にて、公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士がタッグを組んだ総合事務所です。当事務所があらゆる問題解決の窓口となり、ワンストップで解決いたします。経営に関する懸案事項をなんなりとご相談ください。
投稿者プロフィール

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慶応義塾大学商学部卒
延べ100社以上の経営改善業務に従事。資金繰りに悩む多くの会社を支援する中で、会社の経営が傾く原因の共通点に気づく。 現在では、会社の経営が傾く前の予防策が大事だと考え、それをなるべく早い時期から伝えるため、会社設立を含めた起業家支援に注力している。
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