2025/6/22
税務署の「質問検査権」とは?拒否できる?調査対応の基本を徹底解説
「税務調査」と聞くと、「具体的にどんなことが行われるのだろう?」「どこまで準備しておけば安心だろう?」といった疑問をお持ちの方も多いと思います。税務調査は、法律に基づいた手続きであり、調査を行う税務署員と、それを受ける私たち納税者の双方に、守るべきルールや権利、義務が定められています。
そこで今回は、税務調査の基本となる「質問検査権」の内容から、「任意調査」と「強制調査」の違い、そして調査官の要求にどこまで応じる必要があるのかといった点を、具体的な場面を想定しながら解説します。

目次
「質問検査権」とは?
税務署の職員が調査を行う際には、法律で認められたしっかりとした裏付けがあります。それが、『質問検査権』です。この権利は、国税庁や税務署が公平な税の徴収という大切な役割を果たすため、所得税法(第234条)や法人税法(第153条)といった法律で明確に定められています。
簡単に言うと、次の3点が重要です。
- 協力する義務(受忍義務)がある
税務署員からの質問に答えたり、帳簿書類を見せたりすることは、適正な申告が行われているかを確認するために必要な「受忍義務」とされています。日々の取引をきちんと記録し、求められた際に提示できるようにしておくことは、事業を行う上での基本とも言えます。 - 物理的な強制はされない
調査に非協力的であったとしても、税務署員が力ずくで書類を奪ったり、無理やり事務所に踏み込んできたりすることは法律で認められていません。「もし高圧的な態度で迫られたら…」と不安に思うかもしれませんが、法律上そのような強硬手段をとることはできないのです。 - 目的は「犯罪捜査」ではない
悪質な脱税事件を摘発するような、いわゆるマルサ(国税局査察部)が行う強制調査とは異なります。あくまで、私たちが正しく税金を計算し納めているかを確認し、適正な申告を促すための「行政上の手続き」と位置づけられています。
このように、「質問検査権」は国税組織に与えられた調査権限ですが、それは納税者の理解と協力があって初めて円滑に機能するものです。
任意調査と強制調査の違い
税務調査には、その性格や権限において大きく異なる2つの種類が存在します。
任意調査とは
中小企業や個人事業主が通常受ける税務調査のほとんどは、この「任意調査」に該当します。税務署の担当官から「〇月〇日に帳簿の確認でお伺いしたいのですが」といった連絡が入り、事務所で帳簿を見せたり、日々の取引について説明したりします。多くの方が「税務調査」と聞いてイメージするのはこのパターンです。
この任意調査は、その名の通り、私たち事業者の「任意」の協力のもとで進められます。法律(質問検査権)に基づいているため、誠実に対応する義務があります。調査官は、説明を聞き、提出された資料を丁寧に確認しながら、申告内容に誤りがないかをチェックしています。
強制調査とは
ニュースなどで時折耳にする「マルサが動いた!」といったケース、これが「強制調査」です。「強制調査」は、国税局査察部(通称マルサ)が、悪質な脱税など、犯罪としての疑いが非常に濃い場合に、裁判所から発行される「令状」という特別な許可状を手に、ある日突然、予告なしに多数の査察官が踏み込み、帳簿からパソコンデータまで、あらゆるものを徹底的に調べ上げ、証拠物を押収していきます。
ただ、このような強制調査の対象となるのは、ごく一部の計画的かつ多額の不正を行っているような極めて悪質なケースに限られます。
つまり、日頃から適正な経理処理と申告を心がけていれば、通常経験するのは「任意調査」であり、強制調査の対象となる可能性は低いと言えます。

質問検査権を拒否できるのか?「承諾」の注意点
正当な理由がない拒否は罰則も
結論から言えば、正当な理由なく調査官の質問検査を拒むことはできません。 なぜなら、税務職員には「質問検査権」という法律上の権限があり、それに対応して納税者には調査に協力する「受忍義務」が課されているからです。
しかし、万が一の事態は誰にでも起こりえます。例えば、大切に保管していたはずの経理書類が、不運にも事務所の火災で焼失してしまったら? あるいは、近年多発している水害で事務所が浸水し、段ボールに入れていた帳簿類が読めなくなってしまったら?
このような、ご自身ではどうしようもない「やむを得ない事情」で書類の提示や提出が困難な場合、その旨を税務署に誠実に説明し、例えば罹災証明書といった客観的な証拠を添えて手続きを行うことで、調査の延期や、場合によっては中止が認められることがあります。
もし、このような理由なく質問に答えなかったり、帳簿の提出を拒否したりした場合、国税通則法に基づき「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則が科される可能性があります。意図的な虚偽の回答や改ざん帳簿の提示も同様です。
「承諾」の範囲と、拒否できない正当な要求
質問検査権の行使は、原則として納税者の「承諾」を得て進められます。しかし、この「承諾」には注意が必要です。
一度承諾すれば、その範囲内の調査は正当化されやすくなります。例えば、税務計算に関係のない個人的な情報が含まれるパソコンの閲覧を求められ、安易に「はい」と答えてしまうと、それが見られてしまう可能性があります。
一方、税金の計算に直接関わる帳簿書類の提示や、事業内容に関する質問など、質問検査権の正当な範囲内にある要求は、承諾を拒否できません。 これらを拒否すれば、調査妨害とみなされ、罰則の対象となる可能性が出てきます。
つまり、調査官から何かを求められた際は、「それは税務調査の正当な範囲内か?」と冷静に判断することが重要です。税務に関連する事項には誠実に協力しつつ、プライベートな領域への不必要な介入には、その理由を確認する。このバランス感覚が、円滑な調査対応の鍵を握ります。

まとめ
今回は、税務調査の根幹をなす「質問検査権」について、その意味合いから調査の種類、そして私たちがどのように対応すべきかという点を紹介しました。
税務調査は、私たち経営者や個人事業主にとって、決して他人事ではありません。しかし、その仕組みやルールを正しく理解していれば、過度に恐れる必要はないこともお分かりいただけたのではないでしょうか。重要なのは、調査官の権限を理解しつつ、私たち自身の権利も適切に主張すること。そして、日頃から誠実な経理処理と申告を心がけ、いざという時には冷静に、そして毅然とした態度で対応することです。もし具体的な対応に迷うことがあれば、税理士などの専門家に相談することも有効な手段となるでしょう。
ALBA税理士法人は静岡市にて、公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士がタッグを組んだ総合事務所です。当事務所があらゆる問題解決の窓口となり、ワンストップで解決いたします。経営に関する懸案事項をなんなりとご相談ください。
投稿者プロフィール

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慶応義塾大学商学部卒
延べ100社以上の経営改善業務に従事。資金繰りに悩む多くの会社を支援する中で、会社の経営が傾く原因の共通点に気づく。 現在では、会社の経営が傾く前の予防策が大事だと考え、それをなるべく早い時期から伝えるため、会社設立を含めた起業家支援に注力している。
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