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2025/6/21

特定新規設立法人とは?消費税納税義務の発生条件を解説

法人を設立した後の消費税の取り扱いは、経営者にとって大きな関心事の一つです。設立当初の免税期待とは裏腹に、条件次第で設立直後から納税義務が生じる「特定新規設立法人」制度があります。今回は、「特定新規設立法人」制度の概要、要件、免税期間活用の方法を解説します。

特定新規設立法人とは?

特定新規設立法人とは、一定の条件を満たすことにより、資本金が1,000万円未満であっても設立初年度から消費税の納税義務が生じる法人のことです。

具体的には、設立された法人(以下「新設法人」)の株式の50%超を親会社などが保有し、かつ、その親会社などの基準期間における課税売上高が5億円を超える場合に該当します。この場合、新設法人は資本金1,000万円未満でも設立1期目から課税事業者となります。
(※1 親会社だけでなく、親会社とその親会社によって一定の割合以上支配されている特殊な関係にある法人なども含みます。)

例えば、課税売上高5億円超の親会社が100%出資して子会社を設立し、事業を移管した場合、この新設された子会社が特定新規設立法人に該当する可能性があります。この制度は、過去の租税回避スキームへの対策として導入され、2014年4月1日以降に設立された法人が対象となっています。

消費税納税義務理解には、「新設法人」と「新規設立法人」の違いも重要です。

  • 新設法人: 資本金1,000万円以上で基準期間がない法人。
  • 新規設立法人: 資本金1,000万円未満で基準期間がない法人。

原則「新設法人」は設立1期目から課税事業者です。「新規設立法人」は原則最大2年間免税ですが、特定新規設立法人該当や特定期間条件を満たした場合は適用外です。

特定新規設立法人に該当しない「新規設立法人」であっても、設立1年目の開始から6ヶ月間(これを「特定期間」といいます)の課税売上高と給与等支払額の合計が、両方とも1,000万円を超えた場合には、2期目から課税事業者となります。事業が順調に立ち上がった結果、納税義務が発生する点に留意が必要です。

なお、「課税売上高」とは、国内で行われる課税取引の売上を指し、土地の譲渡などの非課税取引による収入は含まれません。

あなたの会社も対象ですか?特定新規設立法人の要件

特定新規設立法人に該当するかどうかは、主に下記2つの要件を両方満たすかどうかで判断します。

1. 他の者による支配関係が特定の要件に該当すること

新設法人が「他の者」(個人・法人)から一定の支配を受けているかです。具体的には、新設法人の発行済株式総数(または出資総額)の50%超を、他の者が直接または間接的に保有している場合に「特定要件」に該当します。

【判定ポイント】

  • 個人株主の場合は親族も合算

個人株主とその親族(事実婚などを含む)の保有割合を合算して50%超となれば該当します。
例:社長が40%、配偶者が20%の株式を保有している場合、合計60%となり該当。

  • 100%支配する法人は一体として判定

「他の者」が100%株式を保有する法人は、同一グループとみなして判定します。
例:社長個人が100%出資するA社が新設法人に出資する場合、社長個人とA社の保有割合を合算します。

  • 議決権も考慮

株式の保有割合だけでなく、重要事項に関する議決権の50%超を特定のグループが保有する場合も該当します。

  • 「他の者」の範囲把握

課税売上高の判定に影響するため、「他の者」の範囲を正確に把握することが重要です。直接の株主だけでなく、間接的な支配者も該当する場合があります。

  • 判定は事業年度開始時点

株主構成などに基づき、新設法人の事業年度開始時点で判定します。

2. その「他の者」の基準期間における課税売上高が5億円を超えること

「特定要件」該当後、次にこの要件を確認します。
1つ目の要件判定基礎となった「他の者」および「特殊関係法人」のいずれかの、基準期間課税売上高が5億円超の場合に満たします。


ポイント】

  • 5億円超の判定対象となる「他の者」は限定的

新設法人の株式を直接保有する者、または議決権により特定要件に該当した場合の議決権を直接保有する者に限定されるのが原則です。

例:A社の100%子会社であるB社が新設法人に50%超を出資している場合、A社は原則として対象外です(ただし、A社が特殊関係法人に該当する場合は除きます)。

  • 「特殊関係法人」定義

「他の者」または「他の者」とその親族(100%支配する法人を含む)によって100%支配されている法人を指します。この場合、特殊関係法人が新設法人の株式を保有しているかどうかは問いません。

例:A社が100%出資して新設法人を設立し、A社に別の100%子会社B社がある場合、5億円超の判定はA社とB社の双方について確認します。

「他の者」が複数いる場合は各々の要件確認が必要です。

法人設立時に消費税が免除となるのはどういうケース?

法人を設立する際、消費税の免税期間を最大限に活用したいと考える経営者は多いでしょう。ここでは、免税期間を確保するための具体的な方法と注意点をご紹介します。

資本金を2期目に増資する

資本金額は納税義務判定に影響します。資本金1,000万円未満設立でも、1期目途中増資で1,000万円以上になると2期目からは課税事業者です。
増資検討時は、2期目以降で行うと1・2期目免税の可能性が高まります。

1期目の期間を長くする

事業年度は法人設立時に決定します。設立日から最初の事業年度末までを長く設定すると免税期間も長くなる可能性があります。
例:設立日から約12ヶ月後を決算日とすることで、原則として約2年間の免除が期待できます。

特定期間の課税売上高や人件費を1,000万円以下にする

資本金1,000万円未満の設立でも「特定期間」の条件に注意してください。
「特定期間」は設立1期目開始から6ヶ月間です。この期間の課税売上高と人件費(役員報酬等)が共に1,000万円超だと2期目から課税事業者となります。
設立当初の役員報酬・人件費計画で、いずれかを1,000万円以下に抑えると、2期目まで免税維持の可能性があるのです。

個人事業主は3期目に法人化する

個人事業主の方が法人化を検討する際、タイミング次第で免税期間を長く確保できる可能性があります。
個人事業主として2年間免税事業者であった後、3年目に法人成りし、新設された法人が特定期間の要件(設立後6ヶ月間の課税売上高と人件費がともに1,000万円以下)を満たせば、理論上は最大で約4年間の免税が期待できます。
ただし、2023年10月から開始されたインボイス制度により、適格請求書発行事業者となるためには課税事業者を選択する必要がある点にご留意ください。

簡易課税制度や2割特例などを利用する

インボイス制度への対応や事業規模の拡大により課税事業者となる場合でも、消費税の負担を軽減するための制度があります。

  • 簡易課税制度

基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できます。売上にかかる消費税額に「みなし仕入率」を乗じて納税額を計算するため、本則課税よりも納税額を抑えられる場合があります。

  • 2割特例

インボイス制度の開始を機に免税事業者から課税事業者になった場合(一定の要件あり)に利用できます。売上にかかる消費税額の2割を納税額とすることができ、事務負担の軽減にもつながります。最適な制度を選択するためには、税理士などの専門家へ相談することを推奨します。

※税法は毎年のように改正される可能性があるため、将来的にこの記事の内容が最新の情報と異なる場合があることにご留意ください。

まとめ

法人設立時における消費税の扱いは、知識と対策によって負担を軽減することが可能です。「特定新規設立法人」制度の理解と、免税期間を活用するためのポイントは、今後の事業運営においても役立つかと思います。

新設法人の消費税納税義務は、資本金の額だけでなく、親会社などとの関係性や特定期間の課税売上高・人件費など、複数の要因によって変動します。判断に迷う場合や、事案が複雑なケースでは、税理士などの専門家に相談することも有効な手段です。ALBA税理士法人は静岡市にて、公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士がタッグを組んだ総合事務所です。当事務所があらゆる問題解決の窓口となり、ワンストップで解決いたします。経営に関する懸案事項をなんなりとご相談ください。

投稿者プロフィール

林 大樹(はやし ひろき)
林 大樹(はやし ひろき)
慶応義塾大学商学部卒
延べ100社以上の経営改善業務に従事。資金繰りに悩む多くの会社を支援する中で、会社の経営が傾く原因の共通点に気づく。 現在では、会社の経営が傾く前の予防策が大事だと考え、それをなるべく早い時期から伝えるため、会社設立を含めた起業家支援に注力している。