2025/5/29
会社設立時の資本金ガイド:資本金の相場と適正額の決め方を解説
法人設立の準備段階で向き合うことになるのが「資本金」です。
資本金とは何か、いくら必要なのか、どのように準備すれば良いのか。これらの疑問は、多くの起業家が抱えるものです。
今回は、資本金の基本的な知識から、金額設定のポイント、さらには設立後の運用に関する注意点を解説します。
資本金とは?
資本金とは、会社設立や増資の際に創業者や株主などから集められる、事業運営の元手となる資金のことです。貸借対照表では「純資産の部」に計上され、会社の体力や信用度を示す指標にもなります。
- 資本金の額
2006年の新会社法で、株式会社は資本金1円から設立可能になりました。以前の最低資本金制度(株式会社1,000万円、有限会社300万円)に比べ、設立のハードルは大きく下がりました。
ただし、法律上1円で設立できても、実際の事業運営には運転資金が不可欠です。資本金が少なすぎると事業継続が難しくなる可能性もあるため、事業計画に合った適切な額を設定することが大切です。
- 資本金の出資方法
出資方法は主に2種類です。
- 金銭出資
現金で払い込む、シンプルな方法。
- 現物出資
不動産やPCなど金銭以外の財産で出資する方法。客観的に価値評価できないものは不可。評価額500万円超の場合は、公正さを保つため裁判所が選任した検査役の調査が必要です。
会社設立時の資本金はどれくらい?
政府統計を参考に、一般的な傾向を見ていきましょう。
1. 最も多いのは「300万円から500万円未満」
総務省統計局の2021年データによると、中小企業の資本金ではこの金額帯が全体の3割以上を占めています。事務所の初期費用、PCなどの設備費、数ヶ月分の運転資金(家賃、仕入れなど)、そしてウェブサイト制作や広告宣伝費といった、事業開始から軌道に乗せるまでの初期費用をカバーする、一つの現実的なラインと考えられます。この規模の資本金は、金融機関からの融資審査や取引先との関係構築においても、一定の信用力を示す一助となるでしょう。許認可が必要な業種や、初期投資が大きめのビジネスモデルの場合、この金額帯が目安となることが多いようです。
2. 次いで「1,000万円以上」や「500万円以上」のケース
「1,000万円から3,000万円未満」が約3割、続いて「500万円から1,000万円未満」というケースも見られます。これらは、より大きな初期投資や事業規模を想定する場合の選択肢と言えます。
3. 「300万円未満」でスモールスタートする選択も
自己資金を抑えたい、あるいはスモールスタートでリスクを軽くしたい場合、資本金を300万円未満に設定するケースもあります。中小企業全体の約1割が、この資本金で設立されています。自宅で開業できるコンサルティング業や、初期費用が少ないITサービス業、フリーランスから法人成りするような場合では、少額の資本金でも事業を始めやすいでしょう。この場合、初期費用を抑え、手元に当面の生活費を確保するという戦略も考えられます。
※資本金を設定する上での注意点
資本金は事業のための資金であり、原則として経営者が個人的に使うことはできません。また、資本金が少ない場合は、運転資金不足のリスクや対外的な信用面で不利になる可能性も考慮し、しっかりとした資金繰り計画を立て、必要に応じて融資や補助金・助成金の活用も視野に入れましょう。

資本金額の決め方のポイント
資本金の額は事業計画や将来展望に応じて決定します。ここでは、資本金額を決定する際の主要な5つのポイントを解説します。
1.節税のために1,000万円未満にする
資本金を1,000万円未満に設定すると、税制上のメリットがあります。
- 消費税の免除
資本金1,000万円未満の場合、設立から最大2年間、消費税の納税が免除される可能性があります。1,000万円以上では初年度から課税されます。
- 法人住民税(均等割)の軽減
従業員50人以下の場合、資本金1,000万円以下では年間7万円ですが、1,000万円超では18万円からとなり、年間11万円以上の差が出ます。
特別な理由がなければ、設立時の資本金は1,000万円未満を検討すると節税につながります。
2.実店舗がある銀行の口座を開設するなら100万円以上にする
実店舗を持つ銀行で法人口座を開設する場合、資本金額が審査に影響することがあります。近年、法人口座開設の審査が厳格化しており、資本金が著しく低いと信用力の観点から開設を断られるケースも報告されています。
確実に実店舗型銀行で口座を開設したい場合は、資本金を100万円以上に設定することを推奨します。
3.融資を希望するなら100万円以上にする
創業融資や金融機関からの借入れを検討する場合、資本金額は返済能力を示す指標の一つと見なされます。資本金が少ないと、融資審査で不利になったり、希望額の融資を受けられない可能性があります。また、取引先の与信判断にも影響します。
融資を視野に入れるなら、資本金は100万円以上を目安に準備することをおすすめします。
4.許認可の種類によっては最低資本金額が定められている
特定の事業(人材派遣業、旅行業、建設業など)を行うには行政機関の許認可が必要で、その際に最低資本金額が要件となっている場合があります。これは、事業の安定性や顧客・従業員保護の観点から定められています。
業種 |
許認可の種類 |
最低資本金額 |
人材紹介・派遣業 |
有料職業紹介業 |
500万円以上 |
労働者派遣業 |
2,000万円以上 |
|
旅行業 |
第1種旅行業 |
3,000万円以上 |
第2種旅行業 |
700万円以上 |
|
第3種旅行業 |
300万円以上 |
|
地域限定旅行業 |
100万円以上 |
|
建設業 |
一般建設業 |
500万円以上 |
特定建設業 |
2,000万円以上 |
事業開始前に、該当する許認可の有無と最低資本金の規定を確認してください。

資本金に関するよくある質問
法人設立の準備中、「これはどう対応すればいいのだろう?」と資本金に関する具体的な疑問が出てくるのは自然なことです。ここでは、そうした疑問にお答えし、あなたの会社設立をサポートします。
Q1.資本金はいくら以上から大企業になる?
「自分の会社が将来『大企業』と呼ばれるには、どれくらいの資本金が必要なんだろう?」と考える方もいるでしょう。
法律(会社法)では、資本金5億円以上または負債200億円以上の株式会社を「大会社」と定義しています。これはあくまで法律上の区分で、一般的に「大企業」というイメージは、資本金額だけでなく、売上規模や従業員数など複数の要素で判断されます。
Q2.会社設立後に資本金を増額するには?
事業が成長し、「さらに事業を拡大したい」「新規事業に挑戦したい」という場合、会社の資本金を増やす「増資」という選択肢があります。
例えば、新たに株式を発行して出資を募る方法や、これまでの利益を資本金に組み入れる方法などがあります。増資には株主総会での決議や登記変更といった手続きが必要になるため、専門家にも相談しながら進めるのが良いでしょう。
Q3.資本金がなくなったらどうなる?
「最初に集めた資本金を事業で使ってしまったら、会社は倒産してしまうの?」と心配になるかもしれません。
資本金は会計上の記録であり、実際の現金の残高とは異なります。そのため、資本金として受け取ったお金が事業活動で使われても、直ちに会社が倒産するわけではありません。 売上入金や融資などで資金を補い、事業を継続することは可能です。大切なのは日々の資金繰り管理です。
Q4.資本金を使うと、貸借対照表に記載している資本金も減る?
「資本金を使って備品を買ったら、貸借対照表の『資本金』の額も減るの?」という疑問もよくあります。
これも心配いりません。資本金(現金)を使っても、貸借対照表の「資本金」の額自体は減りません。 「資本金」は出資された金額を示すもので、現金の減少は「現金」という資産の減少として記録されます。「資本金」の額は、増資や減資といった特別な手続きをしない限り変動しません。
Q5.資本金は個人に貸し出してもよい?
経営者個人が一時的に資金が必要になった場合、会社の資本金から借りることは可能なのでしょうか。
法律上、資本金の使途は基本的に自由なので、個人への貸付も可能です。しかし、決算書には「役員貸付金」として記録され、金融機関からの融資審査でマイナス評価を受ける可能性があります。専門家にも相談し、慎重に判断しましょう。
Q6.資本金のための法人用銀行口座は必要?
「会社のお金(資本金)を入れる法人名義の銀行口座は必須?」というのもよくある質問です。
法律上、設立時の資本金の払込みは発起人個人の口座でも可能で、法人名義口座が最初から絶対に必要というわけではありません。
しかし、登記完了後は速やかに法人名義口座を開設し、資本金を移すのが一般的です。法人用口座は、資金管理の明確化、対外的な信用力向上、税務・会計処理の効率化といったメリットがあります。

まとめ
法人設立における資本金の基本的な知識から、金額設定の具体的なポイント、運用上の注意点を解説してきました。法律上の最低額は1円から可能ですが、事業計画、資金調達、税金、対外的な信用など、様々な側面を考慮して、あなたのビジネスに最適な金額を設定することが肝心です。税理士や司法書士といった専門家に相談することも有効な手段となるでしょう。
ALBA税理士法人は静岡市にて、公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士がタッグを組んだ総合事務所です。当事務所があらゆる問題解決の窓口となり、ワンストップで解決いたします。経営に関する懸案事項をなんなりとご相談ください。
投稿者プロフィール

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慶応義塾大学商学部卒
延べ100社以上の経営改善業務に従事。資金繰りに悩む多くの会社を支援する中で、会社の経営が傾く原因の共通点に気づく。 現在では、会社の経営が傾く前の予防策が大事だと考え、それをなるべく早い時期から伝えるため、会社設立を含めた起業家支援に注力している。
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